肝斑は「炎症性疾患」? レーザーのみではなく、整えたい”土台”の話
しみというと「メラニンが多すぎる状態」と思われがちですが、実際には「炎症によりできたメラニンがうまく分解・排出されず、たまってしまった状態」と考えると理解しやすくなります。
たとえばニキビ跡や虫刺されの跡の色素沈着(炎症後色素沈着)は、炎症の原因がなくなれば、時間とともに自然に薄くなっていくのが基本です。ところが肌が年齢を重ねると、老化した細胞が増え、色素をつくる細胞への指令が乱れたり、メラニンの処理が追いつかなくなったりして、色素が残りやすくなった状態が、「しみ」として考えられています。
肝斑は「炎症が慢性的に続く状態」
肝斑も、広い意味ではこの延長にあるという考えが示唆されてきている印象です。ただ、肝斑は他の「しみ」とは違い、病変部では老化した線維芽細胞が増え、代謝されないだけではなく、その状態が続く慢性的な炎症状態という報告がされています。妊娠・出産、摩擦、日差しなどの刺激と、炎症が長く続く体質的な変化が重なり生じる、というイメージです。
レーザーは「整った土台」の上で力を発揮する治療
シミ向けのレーザーは、メラニンを壊して、体が分解・吸収するのを助ける機械です。トーニングのような弱い照射も、肌への穏やかな刺激で状態を整えることが期待されています。
ただし、炎症の原因が残っている状態では、レーザーそのものが刺激になってしまうことがあります。効果が出にくい、すぐ再発する、場合によっては悪化するといったことも起こりえます。
だからこそ、レーザーとあわせて「土台づくり」がとても大切です。
土台づくり① 炎症の原因を探り、取り除く
これは、必ず最初に始めていただきたいことです。
- 摩擦を避ける:洗顔やクレンジング、タオル、マスクのこすれ
- 光から守る:紫外線に加え、可視光(青色光)も色素沈着に関わると報告されています
- ホルモンの変化を理解:妊娠・出産、更年期、睡眠不足、ストレスなど
原因が続いたままでは、どんな治療も効果が出にくくなります。
土台づくり② 効果的な内服・外用を使う
- トラネキサム酸:もともと止血薬ですが、肝斑ではメラニンをつくる細胞への”指令”を複数の経路で弱めることが報告されています。表皮の細胞を介した抑制、真皮の血管から出るエンドセリンというシグナルの抑制、女性ホルモンによるメラニン産生の抑制などです。
- ハイドロキノン:メラニンをつくる酵素(チロシナーゼ)の働きを抑える成分です。一方で、メラニンをつくる細胞に負担をかける可能性も指摘されているため、濃度や期間を守り、医師の管理のもとで使うことが大切です。
- レチノール・トレチノイン:表皮のターンオーバーを促してメラニンの排出を助けるほか、メラニンをつくる酵素の働きを抑える作用も報告されています。バリアの状態が変わることで、ほかの美白成分が浸透しやすくなり、併用で効果が高まると考えられています。ただし仕組みは完全には解明されておらず、使い始めに赤みや皮むけが出ることもあります。
これらも、紫外線対策と摩擦を避けることが前提です。ここまでで、ある程度までは薄くできる方が多くなります。
それでも残るメラニンと、老化線維芽細胞
土台を整えても、なかなか取れないメラニンが残ることがあります。その背景には、真皮にたまった老化線維芽細胞が関わっていると考えられています。老化した線維芽細胞は、メラニンをつくる細胞を刺激するシグナルを出し続けるとされ、肝斑の病変部ではその老化が確認されています。
つまり、メラニンをつくる細胞だけを見ていても足りず、その周りの真皮の環境にどう向き合うかが次の課題になります。ただし、老化した細胞だけを安全に、選択的に取り除く治療は、現時点では研究段階です。そのため当院では、紫外線や炎症といった新たな負担を減らしながら、肌の状態に応じて真皮のリモデリングを目的とした治療を取り入れるなど、肌全体の環境を整える方向で考えています。真皮のリモデリングを意識した治療が最近トレンドになってきています。日進月歩が激しい美容医療の中で、様々な製剤が生まれ、レーザーなどの熱治療だけでは叶わなかった抗加齢医療が次のステージに進んでいく時代なのかもしれないですね
老化線維芽細胞については、以前のコラムで詳しく書きましたので、あわせてご覧ください。
→ 老化線維芽細胞って何? シミ・しわと「肌を取り巻く環境」
土台は「一度つくれば終わり」ではありません
肌の状態は、いつも同じではありません。以前は問題なく受けられたレーザーでも、肌の状態が悪いときには、かえって悪化させてしまうことがあります。
たとえば、秋冬は問題なくレーザーができていた方でも、夏に強い日差しを浴びたあとの肌は、見た目には分かりにくくても炎症を帯びていることがあります。その状態で照射すると、刺激が重なり、色素沈着や、まだらな色抜けにつながるリスクが高まります。
睡眠不足やストレスの増加も、肌に影響します。睡眠が乱れると、肌のバリア機能が低下したり、ストレスホルモンや炎症に関わる物質が増えたりして、メラニンをつくる細胞に影響することが報告されています。ただし、その仕組みには未解明の部分も残っています。
だからこそ、レーザーは「以前できたから今回も大丈夫」とは考えず、その日の肌の状態を診たうえで、照射の内容を決めることが大切です。状態によっては、照射内容を変更することもあります。
完璧に整えるのは、誰にとっても難しい
ここまで「土台づくり」の大切さをお伝えしてきましたが、正直に言えば、土台を完璧に整えることは誰にとっても難しいものです。
副作用のリスクなどで内服が難しい方もいらっしゃいます。お仕事の都合で、年間を通して強い日差しを浴びる方もいらっしゃいます。妊娠出産、更年期などホルモンの変化は個人の努力ではどうすることもできないこともあります。生活を変えることができない中で、理想どおりの土台の完璧をつくるのは現実的ではありません。
そうした方には、その方の状況に応じた方針をご提案しています。理想の条件がそろわなくても、その状況の中でできる最善を一緒に探していく。それは保険診療、自由診療どちらも診療する上でとても大切だと考えています。
保険診療でも例えば、仕事で手をよく使うために、慢性の手湿疹を発症している場合、原因である仕事を取り除くことはできないケースが多くなります。それは仕方のないことです。大切なのは、その中で、少しでも良い状態を目指し、サポートしていくことです。
この姿勢は、美容医療でも変わりません。当院は、美容医療も「医療」として、一人ひとりの状況に向き合う診療を大切にしています。
レーザーはあくまで治療方法の一つ
炎症の原因を取り除き、内服・外用で土台を整え、肌の状態を見極めたうえで、それでも残るメラニンに対してレーザーを使います。レーザーは「しみを消す魔法」ではなく、数ある治療方法の一つであり、整った土台の上でより力を発揮する治療です。
大切なのは、レーザーを使うかどうかも含めて、その方の肌の状態と生活に合った方法を選ぶことだと考えています。
※効果や副作用には個人差があります。肌質や体調によって合う治療は異なりますので、医師にご相談ください。
参考文献
- Miao F, et al. Unraveling Melasma: From Epidermal Pigmentation to Microenvironmental Dysregulation. Biology (Basel). 2025.
- Espósito ACC, et al. Fibroblast morphology, growth rate and gene expression in facial melasma. An Bras Dermatol. 2022.
- Yadav G, et al. A Review of Post-Inflammatory Pigmentation Changes: Pathophysiology, Diagnosis and Treatment. J Cutan Med Surg. 2026.
- Ip E, et al. Beyond UV: Visible Light and Pigmentation. Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2026.
- Lee YS, et al. The Low-Fluence Q-Switched Nd:YAG Laser Treatment for Melasma: A Systematic Review. Medicina (Kaunas). 2022.
- Aurangabadkar SJ. Optimizing Q-switched lasers for melasma and acquired dermal melanoses. Indian J Dermatol Venereol Leprol. 2019.
- AlJabr A, et al. Tranexamic Acid for Hyperpigmentation Disorders: A Literature Review on Efficacy and Safety in Melasma and PIH. J Cosmet Dermatol. 2026.
- Xing X, et al. Tranexamic acid inhibits melanogenesis partially via stimulation of TGF-β1 expression in human epidermal keratinocytes. Exp Dermatol. 2022.
- Liu LX, et al. Tranexamic Acid Ameliorates Skin Hyperpigmentation by Downregulating Endothelin-1 Expression in Dermal Microvascular Endothelial Cells. Ann Dermatol. 2024.
- Bae YJ, et al. Tranexamic Acid Inhibits 17β-Estradiol-Induced Melanogenesis Through PKA-CREB-MITF Pathway. Exp Dermatol. 2025.
- Kasraee B. Peroxidase-mediated mechanisms are involved in the melanocytotoxic and melanogenesis-inhibiting effects of chemical agents. Dermatology. 2002.
- Charlín R, et al. Hydroquinone-induced exogenous ochronosis: a report of four cases and usefulness of dermoscopy. Int J Dermatol. 2008.
- Ortonne JP. Retinoid therapy of pigmentary disorders. Dermatol Ther. 2006.
- Bhawan J, et al. A histological examination for skin atrophy after 6 months of treatment with fluocinolone acetonide 0.01%, hydroquinone 4%, and tretinoin 0.05% cream. Am J Dermatopathol. 2009.
- Xu J, et al. The Impact of Sleep Quality on Skin Color. Indian Dermatol Online J. 2025.
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。症状や適した治療はお一人ずつ異なります。診断・治療については医師にご相談ください。掲載内容は2026年10月時点の知見に基づきます。