首のイボは血糖のサイン? ― 皮膚に現れる体からのメッセージ
この記事のポイント
- 首イボ(アクロコルドン・軟性線維腫)は、人にうつらない良性のできものです
- 首イボのある人には、インスリン抵抗性や糖尿病が多くみられることが、複数の研究で報告されています
- 原因には、血糖・インスリン、摩擦、ホルモンが関わっています
- 首イボが増えてきたら、次の健康診断で血糖値もチェックしてみましょう
首イボ(アクロコルドン・軟性線維腫)とは? ただの「年のせい」?
首やわきにできる、やわらかく小さな突起。診察室では「親も年を取って首にたくさんあった」「イボ体質だと思う」という声をよく伺います。
この「首イボ」は、医学的にはアクロコルドン(ごく小さなもの)や軟性線維腫(やや大きく垂れ下がるもの)と呼ばれる良性のできものです。肌色〜茶色で、首・わき・まぶた・乳房の下・足の付け根などに多くできます。ウイルス性のイボとは異なり、人にうつるものではありません(文献18・19)。
年齢とともに増えるものですが、実はそれだけではありません。多くの研究が、首イボと血糖やインスリンの状態との関係を報告しています。首イボは、体の中の糖代謝を映す「皮膚のサイン」になることがあるのです。本コラムでは、論文をもとにその関係と仕組みを解説します。
首イボと糖尿病・血糖の関係:首イボのある人には糖代謝の乱れが多い
首イボと最も強く結びついているのが、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなり、血中のインスリンが多くなる状態)です。糖尿病の一歩手前の状態ともいえます。
- 首イボがある70人とない人70人を比べた研究では、インスリン抵抗性がある人は41%対17%でした(文献3)。
- 首イボが2個以上ある110人の研究では、糖尿病の人が58人と、対照群の12人を大きく上回りました。BMI、血圧、中性脂肪も高い傾向でした(文献2)。
- インドの150人の研究では、首イボがある人の糖尿病のオッズ比は1.89でした。首イボができている期間と糖尿病の罹患期間にも関連がみられました(文献4)。
- 高度肥満の方を対象としたアイルランドの研究では、首イボのある人はHbA1cと収縮期血圧が高く、糖尿病のある人の94.6%に首イボがありました(文献5)。
- 子どもでも、首イボのある子の約半数が肥満で、一般集団より2型糖尿病や脂質異常が多くみられました(文献6)。
※これらはいずれも、首イボと糖代謝の乱れが「一緒にみられやすい」ことを示した研究です。ただ、首イボがあるから将来糖尿病になったり、首イボが糖尿病を引き起こすという意味ではないので注意が必要です。両方がインスリン抵抗性という共通の背景から生じていると考えられています。
解釈として、首イボは「血糖を一度確かめてみよう」というきっかけのようなイメージで見ると丁度良い印象です。首イボがあることだけで心配しすぎる必要はありません。
なお、脂質(コレステロールや中性脂肪)との関連は、あるとする研究(文献7)とないとする研究(文献8)に分かれています。血糖・インスリンほど一貫した結果ではありません。
なぜインスリンが首イボを育てるのか
インスリンは血糖を下げるだけでなく、細胞を増やす「成長因子」のような顔も持っています。インスリン抵抗性で血中のインスリンが多い状態が続くと、皮膚の細胞にも「増えろ」という信号が届きやすくなります。
鍵を握るIGF-1とその受容体
特に注目されているのが、インスリンとよく似た形のIGF-1(インスリン様成長因子-1)とその受容体です。
- 糖尿病と診断されていない人でも、首イボの組織ではIGF受容体が多く発現していました。その量は、血中インスリン・IGF-1・インスリン抵抗性の指標(HOMA-IR)と関連していました(文献9)。
- C型肝炎でIGF-1が低下している人では、首イボの数が約半分でした。多変量解析では、インスリン抵抗性が首イボの発生に関わる唯一の因子でした(文献10)。
土台にある遺伝子の変化
慶應義塾大学のグループは、首イボにFGFR3やRASといった、細胞に増殖を促す遺伝子の変異がよくみられることを報告しました(文献1)。これは親から受け継ぐものではなく、年月の中でその場所の細胞に生じた変化です。こうした遺伝子の変化を土台に、インスリンやIGF-1が増殖を後押ししていると考えられます。
レプチンと黒色表皮腫
脂肪細胞から出るホルモンのレプチンも、首イボの組織で多く発現していました。この研究は肥満でない人を対象としており、体重だけでは説明できない仕組みもあるようです(文献12)。
首やわきの皮膚が黒ずみ、ビロードのように厚くなる黒色表皮腫も、インスリン抵抗性の皮膚サインとして知られています。首イボと一緒にみられることが多く、どちらもインスリンが皮膚を刺激しているという同じ背景を持つと考えられています(文献21)。首イボと黒ずみがそろっているときは、特に血糖を確かめておきたいサインです。
首イボと摩擦:こすれる場所で「小さな炎症」が続く
首イボが首・わき・まぶた・乳房の下・そけい部に集中するのは、そこが皮膚どうしや衣類と絶えずこすれる場所だからです。ネックレスやシャツの襟、下着のラインもこすれの原因になります。体重が増えると皮膚のひだが深くなり、こすれる面積も増えます。
こすれた皮膚で何が起きているかも調べられています。
- 首イボの組織では、炎症を起こす細胞である肥満細胞が正常な皮膚より多く、炎症物質のTNF-αも大幅に増えていました。研究者らは、こすれによる刺激が肥満細胞を呼び寄せ、首イボの発生に関わると考えています(文献13)。
- 肥満細胞が出すトリプターゼは、線維芽細胞(コラーゲンを作る細胞)を増やす働きがあります。わきや乳房の下の首イボでは肥満細胞が特に多く、その数は肥満度や血中の中性脂肪とも関連していました(文献14)。
つまり「摩擦」と「代謝」は別々の要因ではなく、太ることでこすれが増え、代謝の乱れが炎症を強める、という形でつながっていると考えられます。
妊娠中に首イボが増えるのも、血糖とホルモンの重なり
首イボは妊娠中に増えやすいことが知られています。妊娠中は胎盤から出るホルモンの影響でインスリンが効きにくくなる時期で、血糖とホルモンの両方が関わる典型例といえます。
- 妊娠糖尿病との関係:妊娠女性120人を調べた研究では、妊娠中に糖尿病がある人で首イボがさまざまな部位で多くみられました。妊娠中の糖尿病と母体年齢は、それぞれ独立して首イボの多さと関連していました(文献15)。
- 性ホルモンの受容体:首イボの組織では、女性ホルモン(エストロゲン)と男性ホルモン(アンドロゲン)の受容体が、正常な皮膚より多く発現していました(文献16)。思春期の体の成長に合わせて急速に大きくなった、アンドロゲン受容体陽性の首イボの症例も報告されています(文献17)。
- 甲状腺:ギリシャの研究では、首イボが多発する人に甲状腺機能低下症が多い傾向がみられました。ただし、関係はまだ確定していません(文献7)。
妊娠中に首イボが目立ってきたときは、妊娠健診での血糖の結果にも目を向けてみてください。
首イボは遺伝する? 親子で似るのはイボではなく「なりやすさ」
首イボそのものが親から子へ遺伝するわけではありません。それでも「親も多かった」という方が多いのには、いくつかの理由が考えられます。
- 代謝の体質が似る:太りやすさ、インスリンの効きやすさ、糖尿病のなりやすさには遺伝的な個人差があります。ここまで見てきたように、首イボはこうした代謝の状態と強く結びついています。
- 成長因子の遺伝子の個人差:IGF-1遺伝子の特定の型を持つ人で首イボが多発しやすいという報告があります(文献11)。ただし対象は60人と小規模で、確かめるにはさらなる研究が必要です。
- ホルモン受容体と家族歴:首イボのエストロゲン受容体の多さは、家族歴がある人と関連していました(文献16)。
- 生活習慣が似る:同じ食卓を囲んできた家族は、食事や運動の習慣も似ています。
つまり「首イボ体質」は、生まれつきの代謝やホルモンへの反応のしやすさと、生活の中で積み重なる要因の組み合わせと考えるのが実態に近いでしょう。生まれつきの部分は変えられませんが、体重や血糖、摩擦はある程度自分で工夫できる部分です。
市販のイボ取りクリームは首イボに使っても大丈夫?
首イボが気になって、市販の「イボ取りクリーム」などを試したことがある方も多いと思います。文献で確かめられる範囲をまとめます。
市販のイボ取りクリーム・イボ取り薬
「イボ取り」をうたう市販品には、いくつかのタイプがあります。
- 植物エキスや油などを配合した保湿クリーム:肌を整える化粧品です。首イボを取る効果を示した臨床研究は見当たりませんでした。
- サリチル酸などで角質を溶かす薬:本来は手足のウイルス性のイボや魚の目が対象です。首の薄い皮膚に使うと、正常な皮膚まで傷つける恐れがあります。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、未承認の「ほくろ・イボ取り」外用品による皮膚障害を38例報告しています。高濃度のサリチル酸や植物由来の腐食成分などが含まれ、やけどや潰瘍を起こしていました。永久的な傷あとが残った例もあり、顔の障害は14例で、うち4例は目の近くでした(文献22)。同様の製品で皮膚が壊死した症例も報告されています(文献23)。
商品の「イボ」が何を指すのかですが、今回のコラムのようなアクロコルドンなどでは、クリームで無理に取ろうとするとかえって悪化する可能性に気を付ける必要があります。
ハサミや糸で自分で取ろうとするのも、出血や化膿の危険があるのでおすすめできません。
首イボに気づいたら、血糖も一度チェックを
首イボは、皮膚の細胞の遺伝子の変化を土台に、インスリン抵抗性や摩擦、ホルモンが後押ししてできると考えられます。中でも血糖やインスリンの状態との関係は、多くの研究で繰り返し報告されています。
| 要因 | 文献からわかっていること | 自分でできること |
|---|---|---|
| 血糖・インスリン | インスリン抵抗性・糖尿病と繰り返し関連。IGF-1が関与 | 健診で血糖・HbA1cを確認 |
| 肥満・摩擦 | 太るとこすれが増え、肥満細胞・炎症物質が増加 | 体重管理、ネックレスや襟によるこすれを減らす |
| 妊娠・ホルモン | 妊娠糖尿病で多い。性ホルモン受容体が多い | 妊娠健診の血糖の結果を確認 |
| 体質 | 代謝や成長因子の個人差が親子で似る | 家族に糖尿病があれば健診を意識 |
首イボと心臓病の危険因子との関連を示した研究もあり(文献20)、血糖だけでなく血圧や脂質も合わせて健診で確認しておくと安心です。ただし、首イボがあるからといって糖尿病というわけではありません。「血糖のサインかもしれない」というくらいの受け止め方がちょうどよいと思います。
こんなときは皮膚科で相談を
- 短期間で急に数が増えた
- 首やわきの皮膚が黒ずんで、ざらついてきた
- 色が急に変わった、出血や痛みがある
- ネックレスや衣類に引っかかって気になる
首イボに似た見た目でも、脂漏性角化症やほくろ、まれに別の腫瘍のこともあります。まず診察で診断をつけたうえで、大きさや数、部位、肌の状態に応じて、切除、液体窒素、レーザーなどの方法を選んでいきます。また、首イボが増えてきたと感じたときは、次の健康診断で血糖値もチェックしてみてください。
首イボについてよくある質問
Q. 首イボは人にうつりますか?
うつりません。首イボ(アクロコルドン・軟性線維腫)は、ウイルスが原因の「うつるイボ」とは異なる良性のできものです。
Q. 首イボがあると糖尿病ですか?
首イボがあるからといって、糖尿病というわけではありません。ただし、首イボのある人にはインスリン抵抗性や糖尿病が多くみられることが報告されています。数が増えてきたときは、健康診断で血糖値も確認してみてください。
Q. 首イボは自分で取ってもいいですか?
おすすめできません。ハサミや糸で取ると出血や化膿の危険があり、市販のイボ取り製品でやけどや傷あとが残った報告もあります。また、首イボに似た別のできもののこともあるため、まず皮膚科で診断を受けましょう。
Q. 首イボは親から遺伝しますか?
首イボそのものが遺伝するわけではありません。ただし、太りやすさやインスリンの効きやすさなど、首イボのできやすさに関わる体質は親子で似ることがあります。
参考文献
(PubMedより取得)
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