薬の常識は変わる ― プロペシア®は本当に男性機能を下げるのか

プラセンタ注射をしても献血ができるようになりました

最近話題ですが、2026年10月1日から、ラエンネック®などのプラセンタ注射を受けたことがある方も献血ができるようになりました。約20年ぶりの変更です。今まで受けてきた方も、これから受ける方もより安心して注射が受けれるようになったと思います。

プラセンタ注射の使用者は、2006年から献血ができませんでした。変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)が輸血でうつる可能性を、理論上は否定できないという予防的な措置です。実際にプラセンタ注射が原因でvCJDを発症したという報告は、当時からありませんでした。

その後、国内外でvCJDの発生が減り、感染リスクの研究も進みました。こうした結果を総合的に判断して、厚生労働省は制限の撤廃を決めています。ただし、他の生物由来の製剤と同じく「最後の注射から3か月間」は献血を控える扱いになります。

薬の注意事項は、長い年月の中で変わっていきます

薬の副作用や禁止事項は、発売された時点で完成しているわけではありません。何年、何十年と多くの方に使われる中でデータが集まり、注意書きが増えることもあれば、反対に外れることもあります。

副作用は薬を使用するとき誰もが気になります。副作用が全くない薬剤は存在せず、服用期間が長くなればなるほど心配になる気持ちはよく分かります。

先日の美容皮膚科学会講演で、AGA(男性型脱毛症)の治療で飲まれる方が増えているプロペシア®(フィナステリド)と、男性機能への影響についてのお話があり、文献の考察も加えてコラムにしました。

プロペシア®内服で男性機能への影響はあるのか?

プロペシア®には、発売当初から性欲の低下や勃起不全(ED)といった副作用が知られています。今も添付文書に記載されている副作用で、なくなったわけではありません。

一方で、AGAの治療に使う量(1日1mg)に限ると、「偽薬(プラセボ)と比べてはっきりした差はない」とする研究もあります。2016年の解析では、AGAの男性で勃起不全や性欲低下が増えるという統計的な差は見られませんでした。

2019年には、皮膚科を受診した18〜82歳の男性762人を調べた研究も報告されています。フィナステリドを飲んでいる663人と、飲んでいない99人を比べたところ、性機能の不調に差はありませんでした。

「将来、子どもを望むときに影響はないか」というご質問もよくいただきます。19〜41歳の男性181人に、AGAと同じ1日1mgか偽薬を48週間飲んでもらった研究では、精子の濃度・数・運動性・形のいずれにも影響は見られませんでした。

ただし、研究によって結果は分かれています。2019年の解析では、偽薬に比べて性機能の不調がやや増える(約1.6倍)という結果でした。どちらにしても、多くの方には起こらない副作用であることは共通しています。

AGAの治療では、ザガーロ®(デュタステリド)を飲まれる方も増えています。ザガーロ®についても、副作用の頻度は偽薬やフィナステリドと大きく変わらないという報告があります。一方で、性機能の不調がやや増えたものの、いずれも軽く、治療中や中止後に治まったという報告もあります。

フィナステリドと同じような傾向の報告が出てきていますが、研究の数はまだ多くありません。ザガーロ®については、もう少し知見の集積が待たれる段階という印象です。

「副作用がある」と知るだけで、症状が出やすくなることも

男性機能は、もともと気持ちの影響をとても受けやすいものです。緊張や不安、「うまくいかないかもしれない」という思いだけで、うまく働かなくなることがあります。

これを示した興味深い研究があります。2007年のイタリアの研究では、フィナステリドを飲む男性を2つのグループに分けました。片方には性機能の副作用を事前に伝え、もう片方には伝えませんでした。

1年後、何らかの性機能の不調を訴えた人は、伝えたグループで43.6%、伝えなかったグループで15.3%でした。勃起不全に限っても、30.9%と9.6%で大きな差がありました。同じ薬でも、「副作用があるかもしれない」と知っているだけで、約3倍も症状が出やすくなったのです。このように、思い込みで不調が出ることを「ノセボ効果」と呼びます。

この研究は前立腺肥大症の治療量(1日5mg)で行われたもので、AGAの1mgとは条件が違います。それでも、男性機能の不調には心の影響が大きいことをよく表しています。

AGAの薬剤は長期的な服用が、効果の面で重要になります。継続的に服用される患者さんにとって、副作用で一番気になる点にはなり、質問を受けることが多い内容です。説明する医師として、少しでも安心して内服できるようにご案内することを心がけています。

薬は、使われながらわかっていくこともあります

薬は、効果や副作用が十分に調べられたうえで発売されます。それでも、すべてが完全にわかった時点で世に出るわけではありません。長く使われる中で、新たに注意が必要になることもあれば、心配されていたリスクがほぼないとわかることもあります。

プロトピック®軟膏の「リンパ腫」の警告もなくなりました

皮膚科でよく使用するアトピー治療薬のプロトピック®軟膏にも似た経緯があります。1999年の発売時から、添付文書の一番目立つ「警告」の欄に、リンパ腫や皮膚がんについての注意が書かれていました。マウスの実験でリンパ腫が増えたことなどが理由です。

その後、小児の患者さんを10年間追跡した海外の大規模な調査が行われました。その結果、悪性腫瘍の発生は一般の人と同じ程度で、増えていないことがわかりました。これを受けて2021年12月、警告欄からリンパ腫などの記載が削除されています。

さらに2026年9月には、使えない年齢が「2歳未満」から「生後6か月未満」に見直されることも決まりました。発売から25年以上たった今も、薬の情報は更新され続けているのです。

タミフル®の「10代は原則使わない」も解除されました

インフルエンザの飲み薬、タミフル®にも同じような経緯があります。2007年、タミフル®を飲んだ中学生の転落事故が相次いで報道されました。これを受けて、10代の患者さんには原則として使用を控えるよう、添付文書の「警告」欄に記載されました。

その後、厚生労働省の研究班が異常行動の報告を詳しく調べました。その結果、異常行動は薬の種類や、薬を飲んだかどうかに関係なく起こっていることがわかりました。10代の報告数は100万処方あたりタミフル®で6.5例、薬を飲んでいない患者さんでも8.0例でした。

つまり異常行動は、薬よりもインフルエンザという病気そのものによって起こるものだったのです。2018年8月、10代への使用を控える記載は「警告」欄から削除されました。今は、どの抗インフルエンザ薬でも、また薬を飲んでいなくても異常行動に注意するよう呼びかけられています。

 

プロペシア®の男性機能への副作用は、今も添付文書に記載されています。ですが、多くの方には起こらないこと、不安そのものが症状を引き起こすこともあることを、知っておいていただければと思います。

昨今、AGAでフィナステリドを飲まれる男性はとても増えています。この記事が、少しでも不安の解消につながれば幸いです。気になる症状があるときは、一人で悩まずにご相談ください。当院のAGA治療についてもあわせてご覧ください。

参考文献

  1. 厚生労働省. 欧州等滞在歴及びヒト胎盤エキス(プラセンタ)注射剤使用歴に係る献血制限の見直しについてのQ&A. 2026.
  2. Liu L, et al. Effect of 5α-Reductase Inhibitors on Sexual Function: A Meta-Analysis and Systematic Review of Randomized Controlled Trials. J Sex Med. 2016.
  3. Lee S, et al. Adverse Sexual Effects of Treatment with Finasteride or Dutasteride for Male Androgenetic Alopecia: A Systematic Review and Meta-analysis. Acta Derm Venereol. 2019.
  4. Haber RS, et al. Finasteride for androgenetic alopecia is not associated with sexual dysfunction: a survey-based, single-centre, controlled study. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019.
  5. Overstreet JW, et al. Chronic treatment with finasteride daily does not affect spermatogenesis or semen production in young men. J Urol. 1999.
  6. Gubelin Harcha W, et al. A randomized, active- and placebo-controlled study of the efficacy and safety of different doses of dutasteride versus placebo and finasteride in the treatment of male subjects with androgenetic alopecia. J Am Acad Dermatol. 2014.
  7. Tsai TF, et al. Prospective randomized study of sexual function in men taking dutasteride for the treatment of androgenetic alopecia. J Dermatol. 2018.
  8. Mondaini N, et al. Finasteride 5 mg and sexual side effects: how many of these are related to a nocebo phenomenon? J Sex Med. 2007.
  9. PMDA. プロトピック軟膏0.1% 添付文書(2021年12月改訂).
  10. 薬事日報. 禁忌対象を乳児に限定‐プロトピック添文改訂. 2026.
  11. 日本医事新報社. 「タミフル」の10代使用制限を解除 ─異常行動への注意喚起は継続. 2018.
  12. ケアネット. 抗インフルエンザ薬、使用上の注意改訂指示. 2018.

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。症状や適した治療はお一人ずつ異なります。診断・治療については医師にご相談ください。掲載内容は2026年10月時点の知見に基づきます。

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