身体醜形恐怖症って何だろう?

「先生、私の〇〇、左右差がありますよね?」

美容外科の診察をしていると、このようなご相談を受けることがあります。

しかし、医師から見ると、◯◯は十分に整っています。医学的にも、これ以上手術を行う必要はないと思える状態です。

それでも、ご本人は「醜い」「おかしい」「人から変だと思われている」と強い苦痛を感じています。

これは単に美意識が高いわけでも、完璧主義な性格だからでもありません。

身体醜形症(Body Dysmorphic Disorder:BDD)という精神疾患の可能性があります。

 

「外見が問題」なのではなく、「外見へのとらわれ」が問題

BDDでは、本人が気にしている外見上の欠点は、他人にはほとんど分からないか、あったとしてもごくわずかなものです。

例えば、どんな感じになるのか??

「◯◯が曲がってみえる」
「左右が全然違う」
「肌が汚すぎる」

といった考えが頭から離れなくなります。

そして、

何度も鏡を見てしまう。

写真を撮って確認する。

家族や医師に「変じゃない?」と何度も尋ねてしまう。

SNSで他人と比較してしまう。

こうした行動を繰り返してしまうようになります。

一時的には安心しますが、その安心は長く続きません。

しばらくすると、また不安になり、再び確認してしまいます。

この「安心するために確認行動を繰り返す」という悪循環が、BDDの特徴です。

 

脳が「欠点」を拡大してしまう病気

BDDは、「顔の見え方・捉え方が変化してしまう病気」だということです。

私たちは普段、自分の顔を客観的に見ているようでいて、実際には脳が情報を整理し、意味づけをして主観的に捉えています。

BDDでは、この情報処理に偏りが生じます。

ほんのわずかな左右差・凹凸など、本来であれば気にならない程度の特徴に脳の注意が集中し、それが次第に「耐えられない欠点」として認識されるようになります。

つまり、問題なのは外見そのものではなく、脳がそれを評価する仕組みなのです。

 

「気にしすぎ」と言われても治らない

周囲の人は、

「全然気にならないよ」
「考えすぎじゃない?」

と励ましてくれます。

しかし、BDDの患者さんにとっては、励ましは逆効果どころか、苦しみは消えません。

本人にとっては、本当にその欠点が見えているからです。

強迫性神経障害(OCD)の患者さんが、「手が汚れている」という不安を繰り返し感じてしまうように、BDDでは「自分の◯◯がおかしい」という考えから離れられなくなってしまいます。

そのため、BDDはDSM-5-TRでも強迫症および関連症群に分類されています。

 

美容手術だけでは解決しないことがあります

もちろん、美容医療には多くの人の人生を前向きにする力があります。

私自身も美容医療に携わる中で、その価値を日々実感しています。

しかし、BDDでは事情が少し異なります。

仮に、ご本人が気になっておられる◯◯の手術をしても、

「今度は◯◯が気になる」
「別の◯◯の左右差が気になる」

というように、気になる場所が変わるだけで、苦しさそのものは続いてしまうことがあります。

これは、手術が失敗したからではありません。

苦しみの原因が、外見そのものではなく、「外見へのとらわれ」にあるからです。

 

SNS時代だからこそ増えている疾患

最近では、InstagramやTikTokなどのSNSで、毎日のように加工された顔を見る機会があります。

フィルターや画像加工によって作られた「理想の顔」が当たり前になると、自分の自然な顔との差ばかりが気になってしまいます。

実際に近年では、「Snapchat Dysmorphia(スナップチャット醜形症)」という言葉も使われるようになりました。

SNSそのものがBDDを引き起こすわけではありません。

しかし、もともと外見を気にしやすい方では、症状を悪化させるきっかけになることがあります。

 

BDDは治療できる病気です

BDDは「性格」でも「わがまま」でもありません。

精神医学では、治療の対象となる病気です。

現在は、

* 認知行動療法(CBT)
* SSRIという抗うつ薬による治療

が有効であることが分かっています。

適切な治療によって、「外見へのとらわれ」が少しずつ和らぎ、本来の生活を取り戻せる方も少なくありません。

 

最後に

美容外科医として、私は、患者さんが悩んでおられる部位を診ています。

一方で、精神科医として診ているのは、「その部位を、患者さん自身がどのように認識しているか」です。

BDDでは、鏡に映るそのものよりも、それを評価する心や脳の働きが苦しみの中心になっています。

だからこそ、「もう一度手術をすること」が最善の治療とは限りません。

美容医療が必要な方もいれば、精神科的な治療が必要な方もいます。

本当に患者さんの幸せを考えるなら、「手術をするかどうか」だけでなく、「その苦しみの原因はどこにあるのか」についても一緒に考えることが大切だと、私は考えています。

 

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