そのかゆみ、年齢のせい?

年齢を重ねてから、「以前より肌が乾燥する」「特に発疹はないのにかゆい」「夜になるとかゆみが強くなる」と感じる方は少なくありません。

加齢による肌のかゆみには、皮脂や水分量の減少だけでなく、皮膚のバリア機能や表面のpH、免疫、かゆみを伝える神経など、さまざまな変化が関係しています。

一方で、高齢になってから発症するアトピー性皮膚炎や貨幣状湿疹、結節性痒疹など、治療が必要な皮膚疾患が隠れていることもあります。「年齢のせいだから仕方がない」と思わず、まずは原因を知ることが大切です。

年齢とともに肌がかゆくなる3つの変化

加齢による皮膚の乾燥・pH上昇・免疫と神経の変化を示す模式図
加齢した皮膚では、乾燥・バリア機能の低下・炎症が重なり、かゆみが続きやすくなります。

1.角層の脂質や水分が減少する

皮膚の一番外側にある「角層」には、水分を保ち、外部の刺激から肌を守る働きがあります。しかし、年齢とともに皮脂や角層の脂質、水分を保つ成分が減少します。さらに、傷ついた皮膚のバリア機能を修復する力も低下するため、肌の水分が蒸発しやすくなります。

乾燥してバリア機能が低下した肌では、通常であれば気にならない衣類の摩擦、温度変化、汗、洗浄剤なども刺激になり、かゆみにつながります。

2.皮膚表面のpHが変化する

健康な皮膚の表面は弱酸性に保たれています。この環境は、角層の脂質を整え、皮膚を守る常在菌のバランスを維持するために重要です。

ところが、加齢により皮膚表面のpHが上昇し、弱酸性を保ちにくくなることがあります。すると、皮膚のバリアを整える酵素が働きにくくなる一方、炎症やかゆみに関係する酵素が活性化します。「バリア機能の低下→刺激→かゆみ→掻破→さらなるバリア低下」という悪循環が起こりやすくなります。

3.免疫や神経の働きも変化する

加齢に伴って皮膚の免疫バランスも変化し、慢性的な弱い炎症が起こりやすくなります。IL-31など、かゆみに関係する物質の影響も受けやすくなる可能性があります。

また、かゆみを脳へ伝える末梢神経の働きも変化します。そのため、肌に目立った異常がなくても、わずかな刺激を強いかゆみとして感じることがあります。

まず見直したい入浴方法と衣類

熱いお湯や長時間の入浴は、皮膚を守る皮脂を必要以上に洗い流します。ぬるめのお湯を選び、ナイロンタオルなどで強くこすらず、洗浄力の強すぎる石けんの使用は避けましょう。

衣類との摩擦や蒸れも、乾燥した肌のかゆみを悪化させます。肌に直接触れる下着やパジャマは、次のようなものがおすすめです。

  • 表面が滑らかで、チクチクしにくい素材
  • 締めつけが少なく、ゆったりした衣類
  • 汗や熱がこもりにくいもの
  • 縫い目やタグが患部に当たりにくいもの
  • 洗濯後に洗剤や柔軟剤が残りにくいもの

一般的には柔らかい綿などが使いやすいでしょう。粗いウールは、太い繊維による物理的な刺激でかゆみを起こすことがあります。素材名だけでなく、実際に触れたときの滑らかさや、着用後にかゆみが出ないかを確認してください。

新しい衣類は一度洗濯してから着用し、香料の強い洗剤や柔軟剤で刺激を感じる場合は、使用量を減らす、すすぎを増やす、無香料の製品に変更するなどの工夫も必要です。

保湿剤は成分と使いやすさで選びましょう

保湿剤には、角層に水分を引き寄せる、水分の蒸発を防ぐ、皮膚のバリアを補うという役割があります。入浴後など肌が完全に乾燥する前に、こすらず優しく塗ることが大切です。

尿素

尿素には角層に水分を取り込んで保持する働きがあります。老人性乾皮症を対象とした研究では、10%尿素配合クリームを1日2回使用することで、乾燥とかゆみの改善が認められました。ただし、掻き傷、ひび割れ、赤い湿疹がある部分では、しみることがあります。

グリセリン

グリセリンは、角層に水分を引き寄せて保持する成分です。高齢者を対象とした研究の系統的レビューでは、グリセリンなどの保湿成分を含む、油分の多い塗布剤が乾燥とかゆみの軽減に役立つと報告されています。

ワセリン

ワセリンは皮膚表面に膜を作り、水分の蒸発を防ぎます。刺激が比較的少なく、乾燥が強い部分や、ひび割れやすい部分に適しています。広い範囲には伸ばしやすい乳液やクリームを使い、特に乾燥する部分だけワセリンを重ねる方法もあります。

セラミド

セラミドは、角層の細胞の間を満たし、皮膚のバリア機能を支える脂質の一つです。セラミドなどを含むスキンケアを高齢者の乾燥肌に使用した研究では、乾燥、かゆみ、角層水分量、生活の質の改善が報告されています。

「天然成分」「オーガニック」「薬用」という表示だけで、必ずしも刺激が少ないとは限りません。香料や植物エキスなどで赤みやかゆみが出る場合もあるため、自分の肌に合うものを選びましょう。

そのかゆみ、本当に年齢だけが原因でしょうか?

衣類や入浴方法を見直し、保湿を続けても改善しない場合は、別の皮膚疾患が隠れている可能性があります。

高齢になってから発症するアトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は子どもの病気と思われがちですが、成人や高齢になってから初めて発症することもあります。子どもの頃にいったん治まっていた症状が、高齢になって再発する場合もあります。

高齢者では、全身に広がる湿疹、強いかゆみを伴う硬いしこり状の湿疹、コイン状の湿疹、慢性的な手湿疹、顔や首の湿疹、強い乾燥など、さまざまな形で現れます。

ただし、接触皮膚炎、薬疹、疥癬、水疱が現れる前の類天疱瘡、皮膚リンパ腫などでも似た症状が起こるため、必要に応じて血液検査、パッチテスト、皮膚生検などを行います。

貨幣状湿疹

貨幣状湿疹は、コインのような円形・楕円形の赤い湿疹が現れる病気です。特に乾燥しやすい下腿や腕にみられ、強いかゆみを伴うことがあります。

貨幣状湿疹の一部は、成人・高齢者のアトピー性皮膚炎の「貨幣状型」と考えられます。ただし、すべてがアトピー性皮膚炎というわけではなく、加齢による乾燥、掻く刺激、接触アレルギーなどでも起こります。円形の皮疹は体部白癬などでもみられるため、見た目だけでは区別できないことがあります。

結節性痒疹

結節性痒疹は、非常に強いかゆみを伴う硬い盛り上がりが、腕や脚、体幹などに多数現れる病気です。幅広い年齢にみられますが、疫学研究では高齢になるほど増える傾向が示されています。

「強いかゆみ→繰り返し掻く→皮膚が厚く硬くなる→炎症とかゆみがさらに強くなる」という悪循環によって形成される、慢性的な炎症性皮膚疾患です。

背景にアトピー性皮膚炎がある場合もありますが、すべてがアトピー性皮膚炎というわけではありません。慢性腎臓病、糖尿病、肝胆道系疾患、甲状腺疾患、神経の病気、薬剤などが関係することもあります。

皮膚科を受診した方がよい症状

  • 保湿を続けても改善しない
  • かゆみが長期間続いている、または夜も眠れない
  • 赤みや湿疹を繰り返している
  • コイン状の湿疹や硬いしこり状の皮疹がある
  • 水ぶくれ、掻き傷、出血、かさぶたがある
  • 全身がかゆい
  • 新しい薬を飲み始めてからかゆくなった
  • ご家族や同居している方にもかゆみがある

皮膚に目立った異常がない場合でも、腎臓、肝臓、甲状腺、糖尿病、血液の病気などに伴ってかゆみが起こることがあります。

まとめ

年齢とともに起こる肌のかゆみには、乾燥だけでなく、皮膚バリアを修復する力の低下、皮膚表面のpH、免疫、神経などの変化が関係しています。まずは入浴方法、衣類、洗剤、保湿剤などを見直しましょう。

一方で、高齢になってから発症するアトピー性皮膚炎、貨幣状湿疹、結節性痒疹など、適切な診断と治療が必要な病気もあります。日常生活の工夫や保湿だけでは改善しない場合は、「年齢のせいだから仕方がない」と我慢せず、皮膚科へご相談ください。

参考文献

  1. Garibyan L, et al. Advanced aging skin and itch. Dermatol Ther. 2013.
  2. Pielak RM, et al. The Role of Skin Surface pH in Age Associated Pruritus. Am J Clin Dermatol. 2026.
  3. Wang Z, et al. Aging-associated alterations in epidermal function. Aging. 2020.
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  5. Chello C, et al. Atopic dermatitis in the elderly. Int J Dermatol. 2020.
  6. Böhner A, et al. Nummular eczema as a variant of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2023.
  7. Morgan CL, et al. Epidemiology of prurigo nodularis in England. Br J Dermatol. 2022.

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